Bicycle−つれづれなること

こんなんでええんかいな!? 「駅リンくん」

鉄道事業者が自社線の駅近くでレンタサイクル事業を手がけることは以前から行われている。関連会社や委託先に運営をゆだねて経費を抑えるとともに,グループ企業であることが多い路線バスやタクシーなどとの競合を避けるよう価格や利用条件を設定することも多い。

そうしたところから,従来観光用の性格が強いものであったが,最近では,都市内移動手段としての,いわゆる都市型レンタサイクルとしての性格が強いものも増えている。

そうした中には,公共交通機関などと同様の,都市内移動交通手段としての自転車の役割を理解せず,レンタサイクル運営上のノウハウももたず,マーケッティングリサーチすらしないまま手がけたもの,地方自治体−行政当局による“放置”自転車“対策”の一環として始められたものもある。

得てしてそうしたところでは,とんでもないことに見舞われることもある。私が経験したばかげた一件を紹介しよう。

「稼ぐ」というなら…

JRの駅近くで駅レンタカーとあわせてレンタサイクルを営業するところは各地にある。東日本では観光地で行われていることが多い。それにたいして西日本では都市型レンタサイクルの性格が強く,こうした駅レンタサイクルに「駅リンくん」と名付け,これを商標登録している。

神戸,乗ってどうなるのか

神戸の市街地といえば,海と山にはさまれて,平地は東西にのびる一方,南北方向では限られ,傾斜地が迫っている。そうしたところにも住宅地だけでなく観光地なども数多い。そうはいっても平地部分が広がっているところも当然少なくなく,150万都市の少なからざるところにおいて,観光・行楽もそうだが,通勤・通学などはもとより買い物のごとき日常生活における都市内交通手段として自転車での移動交通ニーズは少なくない。

東京都内のみならず各地で自転車利用の情況を調査したり,相談を受けたりすることが多いのは都市生活改善ボランティアを運営してきた中では必然のことだが,神戸に関していえば,阪神淡路大震災が発生した1995年から今日に至るまで,被災者からの「お話し伺い」をする訪問活動ボランティア続けているほか,仕事やその他の所用でやってくることが,実は結構多いのだ。

そうしたなかで,神戸の中心地・三宮にあるレンタサイクルを,こうした所用やボランティア活動に活用できないか,試してみようと思った次第だ。

なぜか利用されない駅レンタサイクル

駅レンタカー三宮営業所 (2009.6.5)

JR三ノ宮駅前南東側にあり,レンタカーと駐車場の運営を主としており,レンタサイクルは,実質数台で1日利用のみを扱う。

駅前の超一等地のはずだが,注意して見ないとそこでレンタサイクルがあるとは解りにくい。鉄道関係者に尋ねてもレンタサイクルとしては判らない人もいたが,レンタカーとして尋ねれば判るというものであった。かくして以前から場所と利用情況は確認してあったが,この好立地にもかかわらず利用情況が芳しくないのは疑問であった。これもあわせて,実際に利用して確認しようと思ったのだ。

ゴールデンウィーク頃には新型インフルエンザのため,いくつかの高校で何人かの感染者が出たり,果ては1人の銀行員やコンビニ店員が感染しただけで大騒ぎしたりするといった異常な事態もあったが,この頃には街ゆく人もマスクをつけている姿を見ることはほとんど皆無なまでに,落ち着きを取り戻していた。

そうした梅雨入り前の好天と言っていい2009年6月6日午前,JR三ノ宮駅南側の,ミント神戸に近い東よりの,駐車場の一角にあるレンタサイクルの事業所を訪ねた。

その事業所は駅レンタカー三宮営業所で,いわゆる「駅レンタカー」を運営するJRの関連会社だ。ここではレンタカーとあわせて駅前駐車場の管理も行っており,これらが業務のほとんどすべてと言っていい。レンタサイクルの利用者自体が珍しい存在とされていることが,一瞥して判るものであった。

ほんまかいな!? レンタサイクル1日10800円!?

一般的なレンタサイクルの利用ではおよそ考えられない事態が,陸続として起こされていった。

営業所を訪ね,レンタサイクルの利用を申し出ると,受付に立った従業員とは別の従業員が自転車を準備し,手際よく事が運ぶように思われた。そこでこちらも1日利用の料金500円を手早く払おうと準備したが,受付に立った従業員の男は,それを受け取ろうとはしなかった。

この男は,まず私が持っていた荷物に難癖をつけた。もともと短期の滞在とはいえ,別の所用で神戸に来ていたので,キャリーにまとめていた。観光地のレンタサイクルであれば別料金を取らずに預かるのが普通だ。これにたいして,「自転車のカゴに入らないから,コインロッカーに入れて下さい」と言って,営業所の向かいにある,JR駅構内のコインロッカーを指さした。同じJR西日本グループ会社同士で,カモになる客を融通しあってたかってやろうというのだろう。せこいというかがめついというか,これがJR西日本の社是「稼ぐ」の実践なのだろう。荷物は300円で利用できる最小サイズのロッカーに収まったとはいえ,観光地などのそれからすれば,利用に800円を要するのと同じことになる。

営業所に戻ったところ今度は,氏名・住所の記入を求められた。これはレンタサイクルの利用としては特別珍しいことではないものの,都市型レンタサイクルでは類例はほとんど聞かない。若干疑問に思いながらも,とりあえずこれに応じた。

だがこれでは終わらなかった。これとあわせて,身分を証明するものの提出を求められたのだった。それも運転免許証やクレジットカードのほか指定された数種類のものをもってせよと言うのだった。だがあいにくかかるものはいっさい持ち合わせていなかった。今回が短期の滞在だからというだけでなく,出先での忘れ物・落とし物を防ぐために,極力携行するものを減らすよう心がけてきたからであった。かかるものを持ち合わせていない旨を告げ,こうした要求をする理由を尋ねたところ,この男は「兵庫県レンタカー協会で決めている」などと言ったのだ。

念のために言っておこう。私は決してレンタカーを借りに行ったのではない,レンタサイクルを借りに行ったのだ

もちろん個人情報の取り扱いという観点からも問題があるが,それはさておき,レンタサイクルの利用,それも当日1日だけの利用のために,こうした要求をすることが,他に類例のない,通常の社会通念を逸脱するものであることを,この男に説いたところ,今度は本来の利用料金500円とは別に,「保証金10000円なるものを要求された。「ゼロがひとつ多いのではないか?」と尋ねたが,この男はこれで間違いないというのだ。これまでに2〜3人そうした人がいたが,いずれも自転車を返却後「保証金」を返したなどとも言ったが,その真偽のほどは判らない。

かくしてレンタサイクル1日利用のために10800円を要求されたのだ。

詐術的料金システムとキチガイじみた「保証金」

実際かかる提示をされれば,実質的な利用拒否と受け止めるのが普通だろう。だがここで正面からそう抗議しても,まともな返答はない。そこで,この男の要求で使用し,レンタサイクルが利用できなくなることで不要・無駄になるコインロッカー代の返却を求めてみた。渋々ながらこの男は,自分のポケットマネーからであろう,返却に応じた。かくして実質上貸出拒否であることを認め,損害を償ったとみなすこともできる。だが,この男の主張するところでは,あくまで「規則に従って」行った料金請求だ。

イニシアル・コスト

まずはイニシアル・コストとしての面から見ていこう。

もっともこの10800円というのは,レンタサイクルの1日利用のとして異常に高い金額であることか繰り返すまでもないが,この過程で実際に私が負担し,もしくは金額を明示されて要求されたものに限っただけで。必ずしも総額を意味するものではない。レンタカーでは当然なされているべき,前払い金の総額と内訳の明示がされていないことについて言えば,それとの混同であったとしても,いやそうであればなおのこと,むちゃくちゃなものだ。

またこれは,レンタカー事業においても,軽自動車,小型乗用車を24時間利用できる金額に匹敵する。レンタサイクルの実質的な利用時間を数時間と考え,その時間で比較すると,ほとんどの業者において,最高級車やバス・トラック等を除いた,ほぼすべての乗用車を利用できる金額だ。

もちろん,自転車利用にかかる金額との比較においても異常だ。ホームセンター・量販店等において数千円で購入できる自転車はいくらでもあり,スポーツタイプの自転車を除いた一般的な自転車の平均価格は1万円を割っているといっていい。レンタサイクル事業に供されているものも,レンタサイクル向けに丈夫につくられたものではなく,かかるものと判断できるので,1万円というのは新品購入価格を大幅に超えることになる。

中古自転車も当然購入可能だが,それを利用すればイニシアル・コストはさらに抑えられることになり,さらに利用後売却することまで合わせれば,実質的にレンタサイクル料金並に(しかもそれ以上のクオリティーで)利用することも可能だ。

料金体系

次に料金体系を見ていこう。

同社のレンタサイクル事業では,1ヶ月定期利用と1日利用があり,利用料金はそれぞれ2200円と300円が基本だが,1日利用のみの事業所では500円としている。これとは別に1ヶ月定期利用においては保証金8000円を前受けしている。また1日利用については,時間によって料金区分をしておらず,その営業所の営業時間内に返却するか,翌日の10時までとするかのいずれかとなっている。

ここでの「保証金」10000円なるものは,規約上本来,盗難・全損などの場合の弁償や休業補償(利用率からしてこれが発生するとは思われないが)としているもので,前受金のことではないのだ。従って料金体系に含まれるものではなく,それ自体の不当性を指摘すればそれまでともいえよう。

問題はそれが自転車の価格を上回るだけではない。同社レンタサイクル事業の「1ヶ月定期利用」において要求している金額が8000円であることとの比較においても疑問だ。もちろん8000円としてもレンタサイクルに供されている自転車の価格を上回ると思われるだけでなく,他の事業者との比較においても,「保証金」の有無はもとより,料金体系,サービス・クオリティなどの面からも疑問だが,こうした高額の「保証金」を前受けすることで,名目上の利用料金を抑え,低料金に見せかけるものであることが,ハッキリしてくるのだ。

保証金

保証金」としての問題点を見ていこう。

もちろん他の事業者による1回利用のレンタサイクルにおいても,例外的ながら「保証金」を要求するところはある。そうしたところでも,利用料金を含めた前受金・預り金としたもので,金額も,基本的な利用料金程度か,多くても2〜3倍程度で,いわばホテルの宿泊料のそれと同様のものであり,これが通常の社会通念に照らして妥当なやり方だろう。

こうした「保証金」は,身分証の提出云々とは関係なく,一律に全利用者に求めており,特定の利用者に求める点でも,通常の社会通念を逸脱した,異常なものと言わねばならない。

これはどういう問題なのか?

これはどのような問題なのだろうか。その性格を考えてみよう。

消費者問題

以上のように,料金をめぐる問題について述べてきたが,こうしたしくみは何もレンタサイクルに限らず他の商品やサーヴィスにあっても問題となることだ。とすればこれは消費者問題と言うことになる。

交通問題

不当な高額請求や実質的に拒否に当たる点についても消費者問題のうちだ。だがこの点については,これが都市型レンタサイクルであることを鑑みれば,これが都市内移動交通手段のひとつであり,そのように機能するためには,公共交通機関と同様,誰でも利用できるものでなければならない。そうした機能・役割に鑑みれば交通問題である。

身分を証明するものの提出を求めることについては,個人情報保護の問題があることは繰り返すまでもないが,それ以前にかかる要求自体が移動交通手段へのアクセスを妨げるという点において,交通問題としても看過できない。電車やバス,タクシーに乗るとき身分を証明するものを要求するところがあるだろうか?

監督官庁の不在

この一件が発生した当時はまだ消費者庁は発足しておらず,行政機関であれば近畿経済産業局神戸市の消費生活課が窓口になるところだ。こういったところでは,死傷者が出るとか火災が発生するといった事故が起こったり,同じことがらについて数多くの相談・苦情が寄せられたりしない限り,なかなか動かないものだ。だがいずれにしてもレンタサイクル事業の所轄官庁ではないので,監督・指導の権限はもたず,業者側のやりたい放題になってしまう。交通機関であれば当然国土交通省の所管であるが,レンタカーならいざ知らず,レンタサイクルにたいする許認可権限などはない。

そしてひとつが…

この一件があったとき営業所には所長がいなかった。そのためこの男の言動が,彼一人の勝手なものなのか,営業所レヴェルの問題なのか,あるいは同社全体の問題なのかをにわかに判断することはできなかった。そこで,同社の他の営業所で,同様なことが行われるかどうかを確認し,その結果をふまえて,本社の責任者に善処を求めることにした。

かくしてこの日と同じ条件で,同社の他の営業所において,レンタサイクル駅リンくん(1日利用)を利用してみた。本人確認のための証明書類を求めるところはあったが,何をもって証明書類とするかは担当者・営業所によって異なるものの,おおむね柔軟に対応してくれたのみならず,結果として証明書類がなくても貸出を受けることができた。もちろん「保証金10000円」を要求されるといったこともなかった。

すなわち,管見の限り,先日と同様の事例は,他の営業所では全くみられなかった。こうした結果からすると,三宮営業所におけるこの男が勝手にトラブルを引き起こしたといえるとともに,営業所長の[監督]責任についても問われるべきだ。そしてひとつの結論が出た。

窓を開ければ


神戸港寄港中の日本丸・海王丸ともに (2009.6.15)

閑話休題。

ブルースの女王・淡谷のり子が歌う「別れのブルース」という名曲があるが,「窓を開ければ」で始まるこの歌に出てくるのが「メリケン波止場」だ。近代の神戸港の草創期から重要な役割を果たしたが,神戸港の拡大で港湾機能が東側へシフトする中で,その存在は過去のものとなり,今ではメリケンパークとなっている。ハーバーランドとともに神戸港やそこに行き交う船を眺めるのにいいところだ。

このレンタサイクル利用調査の中でも,神戸駅前でのそれは決定打となった。同社でレンタサイクルを営む事業所のうち三宮に最も近いのは神戸駅だ。そこで借り出した後,いったんガードをくぐって湊川神社附近に出た後,海側に戻り,ハーバーランド方面に向かった。

神戸駅附近は比較的平地が多いものの,かかる立地のために,目的地に行くまでには若干距離があることから,自転車利用とレンタサイクルの需要がそれだけありそうだと思われることが確認できた。神戸港方面であれば,ハーバーランドに近いあたりでなければ,元町や三宮からでもさほど距離は変わらないところもあるが。

例の一件から10日目の6月15日も所用で神戸に来ていたのだが,この日は大型帆船日本丸・海王丸がともに神戸入港中であることを,報道で知っていたので,接岸しているのと向かい側に当たる,メリケンパークから眺めることにした。

レンタサイクルで波止場まで行って船に向かってカメラを構えながら,そばで遊んでいた小学生らと話してみると,例の新型インフルエンザで学校が休校になった分,夏休みが短くなって,いちばん暑いときに学校に行かなければならなくなったとのことだった。

この角度では午後から順光になるので,もうしばらく待っていたいところだったが,所用のため早めに引き上げなければならなくなった。それでもレンタサイクルでの神戸港観光を,その他の利用ニーズと合わせて確認できた。

最後の闘いに

このように,他の営業所の情況を実際に確認するとともに,本社の責任者に対応を迫ったわけだが,これとあわせて問題の三宮営業所に再び赴き,例の男に,こうした経緯を説明したが,自らの非を認めるにはいたらないものの,愚にもつかない言い訳のトーンはやや下がったかのようであった。このときも,レンタサイクルは他に若干の利用はあったものの,他の営業所に比べて利用率が低いことは相変わらずであった。この男あるいはこの営業所が,他にも問題を起こしている可能性をにおわせるものであった。

7月に入って,こうした情況も合わせて本社の担当者に報告,引き続きしかるべき対応を迫った。これには速やかな対応がなされたようだ。

それから1週間近く経った7月11日昼,三たび三宮営業所に赴いた。するとこれまで2度にわたって不在であった営業所長とようやっと直接面談することができた。営業所長は,本社の指示を受けて,「保証金10000円」要求は今後行わないこと,身分証の有無にかかわらず,利用者を差別・区別することなく対応することにした旨を説明した。

かくして三宮の「駅リンくん」は,都市型レンタサイクルとして再生への第一歩を歩み出したのであった。

付記

この一件と直接関わるわけではないが,その前提になるものとして,こうした都市型レンタサイクル事業の少なからざる部分が,地方自治体−行政当局による自転車“対策”の一環として誘致・導入されたものであることを見落としてはならない。“放置”自転車にたいするそれのみならず,自転車利用環境の全般的悪化をもたらすものであり,その影響から自由であろうはずはない。それについては以下をあわせてご覧戴きたい。

都市型レンタサイクルに明日はあるか? (都市生活改善ボランティア)
会期末近く (HARA Hideki's Blog)

(2010.3.10)

Bicycle-つれづれなること:

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