読書ノート『環境哲学への招待』
生きている自然を哲学する

環境問題が全地球規模の重要問題であることは,もはやいうまでもないことだ。だが,それについていかにとらえ考えるべきかといった,きちんとした議論となると,きわめて少ないのが現状だ。もちろん,環境について何がしらのことを考えただけでは「環境哲学」にならないし,いわゆる哲学の専門用語を並べ立てて環境について語ったからといって,「環境哲学」になることもない。

手っ取り早く身近でできそうな「地球にやさしいこと」をして,環境について考えたつもりになっているだけの人,環境への配慮を巧みに経済性と絡み合わせて,大量生産の工業製品を宣伝する企業,天然資源の独占的大量消費に支えられた現状を守ることに汲々とする先進国……,我々の耳目を覆っている言説の少なからざる部分は,それらについての情報とそれらが発する「言い分」なのだ。

こうしたことに何らかの問題意識を抱くことは難しくない。だが,その問題意識を,感覚的次元から脱却して,自らの考えと呼べるだけのものにしていくのは,易しいことではない。そのために必要なものとして,人間と自然との関係のあり方,立場や主体性についての自覚などがあげられよう。とりわけ前者について,同書から教えられることは大きい。

本書の眼目は,人間中心主義(anthropocentricism)の見なおしにある。西田哲学に造詣が深い,京都学派に属する著者・西川富雄氏のもともとの専攻は,シェリングを中心としたドイツ哲学だ。この人間中心主義を作り出してきた西洋哲学の中から,これを超克する方法を見いだし我がものとするまでには,著者には何かしらの内的苦闘もあっただろう。だが,同書からはその痕跡は見いだしがたい。実にスマートに仕上げられている。

これは同書が,高校生向けいってもいいぐらいに平明な用語と文体で書かれているという,特長と表裏一体のものだ。というのは,西田哲学やその影響下にあるものにおいてとりわけ顕著なことだが,哲学書特有の難渋な文体は,著者が到達した地点に至るまでの過程をも,読者に共有させる作用を,含意とともに持ったものだからだ。こうしたことに思いを致して読むなら,ヨリ深い理解を得られるだろう。また,現代の身近な問題を哲学的にとらえるのに,難解な用語(もっともこうした用語が問題を正確にとらえる上で有効かどうかということも大いに疑問であるが)を必ずしも必要としないことを,気づかせてくれるものでもある。

近代化を,人間中心主義の過程であり,「『世俗化』の過程,『神を失う過程』」であるとし,本来「人間性を尊重し,人間的なものを拡大する近代思想の有力なひとつ」であったヒューマニズムが「近代工業文明とともに,勝手な人間本意の思想,思い上がった人間主義へと転化」した「人間中心主義」を「近代化の過程において真剣に反省さるべきイデオロギー」としている(p.80)。

F.ベーコンが「知は力」として以来,近代人はさまざまな分野で大きな成果を誇るようになったが,やがてそれが無力の意識に転化し,人間中心主義が挫折するものであることを説き,「取り巻く世界を自分の勝手な都合で,支配しない」・「自分だけの都合で,地球環境の調和を取り乱さない」・「生態系を,自分の都合にあわせて勝手に蹂躙しない」こと,他者存在と共存することを説く(p.85)。

あわせて,「近代の力学的自然像」を批判し,「生きた自然」像を確立した人としてシェリングに言及しつつ,こうした「生きた自然」を「二十一世紀,環境をキーワードとする文明のもとで復活さるべき自然概念」として,「こんにち自然を哲学するというとき,目に見える山川草木としての自然よりは,その背後に,たとえ目に見えなくとも造化の働きとしての自然,自己創成の力を自分自身のうちに宿している自然,こうした本源の自然を新しい自然概念として求めていきたいのです」と述べ,さらにすすんで「合目的的に調和のとれた自然のあり方」を展望している(p.55-57)。

ありきたりの言い方をすれば「共生」となるが,単なる他人の言説・用語の寄せ集めや,そのラベリングとしてこの語が使われることが多い中にあって,ここでは,当然のことながらそのような浅薄な使い方はしない。「共生(concrescence)」という用語・概念が,こうした論理構築に支えられたものであることの意義を,かみしめたいものだ。

もちろんこうした基本的な議論以外にも,科学思想・経済思想・宗教的自然観・技術論から,ゴミや環境ホルモンといった現代的な身近な話題に対する哲学的アプローチなどにも言及されている。

一人一人の「環境哲学」を構築する手がかりになる一冊だ。

西川 富雄(立命館大学名誉教授)著,こぶし書房 2002年4月

参考

新刊紹介 (こぶし書房):構成・目次などはこちらをご覧下さい。
環境goo (2002年5月)

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